防衛機制(defense mechanism)とは、「自我を守ろうとする無意識的な心の働き」を意味する心理学用語です。
防衛機制には、抑圧・投影・反動形成など、種類が多くあります。そのため意味が混合してしまったり、覚えづらいと感じている人も多いでしょう。
そこで今回は、心理学における防衛機制とは何か、わかりやすくまとめました。防衛機制の種類や具体例についても、簡単に紹介しています。
また防衛機制の覚え方や、原始的防衛機制との違いにも触れているので、ぜひ参考にしてみてください。
防衛規制とは?心理学の意味をわかりやすく解説
防衛機制とは、もともと精神科医のジークムント・フロイト(S.フロイト)が概念化したものです。その後、娘のアンナ・フロイト(A.フロイト)によって整理されました。
これは「自我を守ろうとする無意識的な心の働き」を意味する心理学用語です。心の中にある葛藤や、受け入れがたい感情などを対処する機能として役立っています。
【防衛機制とは】
自我を守ろうとする無意識的な心の働きのこと。
A.フロイトは、以下の防衛規制を主要なものとして挙げました。それ以外にも、ほかの心理学者が提唱した防衛規制があるので、合わせて覚えておくと良いでしょう。
抑圧 | 受け入れがたい欲求を無意識に抑え込み、感じないようにすること。 |
---|---|
退行 | 早期の発達段階に戻ることで、自我を守ろうとすること。 |
反動形成 | 受け入れがたい感情を抑圧するため、それとは反対の行動や態度をとること。 |
隔離(分離) | 受け入れがたい感情と、行動を切り離すこと。 |
打ち消し | 不安や罪悪感を感じる行動をした後に、別の行動で打ち消すこと。 |
投影(投射) | 自分が相手に向けている感情を「相手が自分に向けている」と思うこと。 |
取り入れ | 相手の中にある感情や観念を、自分のものとして取り込むこと。 |
自己への反転 | 相手に向けている感情を自分に向けること。 |
逆転 | 感情や欲求が正反対のものに変わること。 |
昇華 | 反社会的な衝動を、社会的に受け入れられる活動に向き換えること。 |
置き換え | ある対象に向ける感情を、別の対象に向けること。 |
※A.フロイトは、昇華と置き換えについて同種としています。
フロイトがまとめた防衛規制の種類を紹介
抑圧
防衛機制の中でも、S.フロイトが最も基本的なものと考えたのが「抑圧」です。
これは自我を脅かすような衝動や、受け入れがたい欲求を無意識に抑え込み、感じないようにすること意味します。「臭いものに蓋をする」という表現がぴったりでしょう。
抑圧された感情を、意識的に思い出すことは非常に困難です。ただし無意識の中でずっと留まっているわけではなく、身体的症状・精神的症状として表れる場合もあります。
そのためS.フロイトは、無意識に抑圧されたものが神経症の原因であり、それを自由連想法などで意識化することで改善できると考えました。
退行
「退行」とは、早期の発達段階に戻ることで自我を守ろうとする防衛機制のことです。
退行の代表例には「赤ちゃん返り」があります。弟や妹が生まれた際に、両親から愛されなくなってしまうことを恐れ、上の子の言動が赤ちゃんの頃に戻ってしまうイメージです。
退行により特定の発達段階に固着すると、人格形成に影響を与えると考えられています。ちなみに病的なものだけでなく、創造的で健康的な側面をもった「創造的退行」もあります。
反動形成
「反動形成」とは、受け入れがたい感情を抑圧するために、それとは反対の行動・態度をとってしまうことを意味します。
具体例としては、本心とは裏腹なことを言う・好きな子をからかってしまうなどです。他者から見たときに、行動が過剰だと思ったり、わざとらしいと感じたりすることもあります。
隔離(分離)
受け入れがたい感情と、行動を切り離すことを「隔離(分離)」と言います。これは感情を切り離すことによって、不安や苦痛から逃れようとする目的があると考えられます。
たとえば嫌いな記憶を思い出している人が、機械的に淡々と話しているイメージです。隔離と同時に、反動形成や打ち消しが見られることもあります。
打ち消し
不安や罪悪感を感じるような行動をした後に、別の行動で打ち消そうとするのが「打ち消し」です。反対の態度をとって、やり直そうとする様子が見られます。
これは暴力を振るってきた相手が、急に優しくなる姿を想像するとわかりやすいでしょう。また何度も手を洗ってしまう洗浄強迫も、打ち消しの代表例として挙げられます。
投影(投射)
「投影」とは、自分が相手に向けている感情を「相手が自分に向けている」と思い込むことを意味します。受け入れがたい感情を、相手に写し出しているようなイメージです。
たとえば嫌いな先輩に「先輩は私のことを嫌っている」と投影することで、不快な感情では自分の中にあるのではなく、相手が持っている(相手が原因である)と思えるわけです。
取り入れ
投影とは逆に、相手の中にある感情や観念を、自分のものとして取り込むのが「取り入れ」です。属性の一部を真似ることで、自分と相手を重ね合わせようとします。
子どもが親の価値観・考え方を真似するのも、取り入れの例のひとつです。ちなみに、似たような防衛機制として、「同一視(同一化)」があります。
自己への反転
相手に向けている感情を、自分に向き換えることを「自己への反転」と言います。
たとえばいじめを受けて、相手が悪いと思っていても、それを意識できずに自分が悪いと感じるようなイメージです。自分自身を責めて、抑うつ状態に陥ってしまうこともあります。
逆転
「逆転」とは感情や欲求が、正反対のものに変わることを意味します。
具体例としてわかりやすいのは、好きな人に振られて、相手のことを嫌いになってしまう話です。ほかにも、サディズムがマゾヒズムに変わる・覗き魔が露出狂に変わるなどがあります。
昇華
攻撃欲求や性的欲求などの反社会的な衝動を、社会的に受け入れられる活動に向き換えて発散したり、満たそうとしたりすることを「昇華」と言います。
社会的に受け入れられる活動の具体例は、スポーツで身体を動かすこと、絵や音楽で表現することなどです。そのため昇華は、健康的な防衛規制であると考えられています。
置き換え
「置き換え」とは、ある対象に向ける感情を、別の対象に向けることを意味します。たとえば自分の父親を憎む子どもが、代わりに担任の教師を憎むようになるイメージです。
ちなみにA.フロイトは、昇華と置き換えについて同種としています。
その他の防衛規制の種類や具体例を簡単に説明
A.フロイトがまとめたもの以外に、ほかの心理学者が提唱した防衛規制があります。
代表的な種類と具体例をまとめてみたので、あわせてチェックしておくと良いでしょう。
同一視 (同一化) | 自分にないものを持つ相手の属性を取り入れ、その人のように振る舞うこと。 例:好きな俳優の髪型や服装を真似る |
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合理化 | 自分の欲求が満たされないときに、合理的な理由をつけて正当化しようとすること。 例:イソップ童話の「酸っぱいブドウ」 |
知性化 | 受け入れがたい経験を論理的に話したり、それに関する知識を得たりしようとすること。 例:自分の病気のことを専門用語を用いて淡々と語る |
逃避 | 受け入れがたい状況から逃げようとすること。 例:上司が嫌いなので転職する、空想に浸る |
補償 | 自分の弱点や劣等感を別の方法で補おうとすること。心理学者のアドラーが提唱した。 例:勉強は苦手なのでスポーツを頑張る |
解離 | 衝撃的な体験や記憶を自我から切り離すこと。一連の心的機能が統合していない状況を表し、突然思い出すこともある。 例:嫌な記憶がフラッシュバックする |
【覚え方】防衛規制は具体例やキーワードと一緒に覚える
防衛機制の種類は多いので、基本的には具体例と一緒に覚えるのがおすすめです。実際にイメージしてみることで、印象に残りやすくなります。
またここでは、私が考えた各防衛機制のキーワードをまとめてみました。心理学のテキストごとに説明文の違いもあるので、覚え方の例のひとつですが、参考にしてみてください。
抑圧 | 無意識に抑え込む・意識から追い払う・感じないようにするなど |
---|---|
退行 | 早期の発達段階に戻る・未熟な行動をするなど |
反動形成 | 反対の態度を示す・逆の行動をとるなど |
隔離 (分離) | 感情と行動を切り離すなど |
打ち消し | 行動した後に別の行動でやり直すなど |
投影 (投射) | 自分の中にある感情を相手が持っていると思う・相手に写し出すなど |
取り入れ | 自分のものとして取り込むなど |
自己への反転 | 相手に向けている感情を自分に向けるなど |
逆転 | 感情や欲求が正反対のものに変わるなど |
昇華 | 社会的に価値のある活動をする・スポーツや芸術に熱中するなど |
置き換え | 別の対象に向け換えるなど |
同一視 (同一化) | 相手の属性を真似る・その人のように振る舞うなど |
合理化 | 合理的な理由をつける・正当化するなど |
知性化 | 知的に話す・論理的に表現する・知識を得るなど |
逃避 | 逃げる・現実と向き合うことを避けるなど |
補償 | 劣等感を克服する・弱点を補うなど |
解離 | 体験や記憶を自我から切り離す・統合性が喪失しているなど |
防衛機制と原始的防衛機制の違い
フロイトの防衛機制とは異なるもので、「原始的防衛機制」という概念も存在します。防衛機制と原始的防衛機制の違いは、提唱者や見られる時期にあります。
原始的防衛機制の提唱者は、心理学者のメラニー・クラインです。乳幼児にも見られる基本的なもので、分裂・否認・投影性同一視などが挙げられます。
心理学の本を読むと、明確に区別されておらず、防衛機制の例として紹介されていることも多くあります。そのため、どのような種類があるのかを一度確認しておくと良いでしょう。
分裂 | 対象や自己に対して、良い部分と悪い部分を切り離すこと。 |
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否認 | 受け入れがたい現実を否定して認めないこと。 例:医師からガンだと診断されても信じない |
投影性同一視 | 投影した対象に同一化すること。 例:私はAくんに嫌われていると思う(投影)→それなら私もAくんが嫌いだ(同一化) |
原始的理想化 | ある対象をすべて良いものだと見ること。対象の悪い部分を否定し、良い部分のみ過大評価する。 |
脱価値化 (価値の引き下げ) | ある対象をすべて悪いものだと見ること。対象への期待が満たされない場合に過小評価する。 |
躁的防衛 | 自分は万能で相手を支配できると思い、罪悪感を伴う抑うつ感情を回避すること。征服感・支配感・軽蔑感が特徴。 |
心理学の防衛機制の種類・具体例・覚え方まとめ
今回は心理学における防衛機制とは何か、意味をわかりやすくまとめました。
防衛機制の意味は、以下のとおりです。S.フロイトが概念化し、A.フロイトが整理したもので、抑圧・投影・反動形成など、さまざまな種類があります。
【防衛機制とは】
自我を守ろうとする無意識的な心の働きのこと。
防衛機制の覚え方としては、具体例やキーワードを一緒に確認しておくのがおすすめです。また原始的防衛機制との違いも、あわせてチェックしておくと良いでしょう。
防衛機制について理解を深めるためにも、ぜひここで紹介した内容を参考にしてみてください。
防衛機制の参考書籍
心理学 新版
『心理学 新版』には、大学から大学院レベルの心理学がまとめられている一冊です。動機づけの章で、防衛機制について解説されています。
A.フロイトがまとめた防衛機制の種類も、この本に書かれていました。約700ページありますが、項目ごとに細かく分かれており、気になる部分だけを読むこともできます。
よくわかる臨床心理学
『よくわかる臨床心理学』では、臨床心理学に関する専門用語が、それぞれ2〜4ページ程度で丁寧に解説されています。原始的防衛機制のことも詳しくまとめられていました。
本のサイズは大きめですが、図表や参考文献なども記載されているので、防衛機制について勉強する際には役立つでしょう。
ステップアップ心理学シリーズ 心理学入門
『ステップアップ心理学シリーズ 心理学入門』は、すべてカラーで解説されているのが特徴です。心理学に関する教科書のようなものを探している人に向いています。
防衛機制については、臨床心理学の項目で紹介されていました。それぞれの特徴や具体例について表でまとめられており、参考になると思います。
図解 心理学用語大全
『図解 心理学用語大全』は、すべての心理学用語を図解付きで説明している心理学本です。それぞれの解説は1〜2ページ程度で、どれも簡潔にまとめられています。
防衛機制についても、可愛らしくてわかりやすいイラストで解説されていました。心理学の導入としてもおすすめで、初心者や文章を読むのが苦手な人はチェックしてみてください。
心理学 キーワード&キーパーソン事典
『心理学 キーワード&キーパーソン辞典』は、公認心理師試験や心理学系の大学院入試にも対応している本です。専門用語の解説がコンパクトにまとめられています。
防衛機制についても、種類ごとに簡単な説明があり、わかりやすいと思いました。試験勉強にも役立つので、ぜひチェックしてみてください。
防衛機制の参考文献
※参考書籍や参考文献をもとに、筆者の見解を踏まえて内容をまとめております。
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