心理学における投影とは、自分がもつ否定的な感情を、他人のものとして知覚することです。投射と呼ばれることもあります。
たとえば、あなたの周りに自己中心的な先輩がいて、その人のことを嫌いに思っているとします。
そしていつの間にか「先輩は自分のことを嫌いに思っている」と、まるで相手が否定的な感情をもっているかのように感じるのが投影です。
ここでは投影とは何なのか、意味をわかりやすく解説しています。また人が投影する理由や、投影性同一視にも触れているので、ぜひ参考にしてみてください。
心理学の投影とは?意味をわかりやすく解説!
そもそも投影とは、心理学者のジークムント・フロイト(Sigmund Freud)の考えをもとに、娘のアンナ・フロイト(Anna Freud)が整理した概念です。
精神分析における防衛機制のひとつで、「自分の受け入れがたい状況・否定的な感情を、他人がもっているように捉えること」を意味します。
【投影とは】
自分がもつ否定的な感情を、他人のものとして知覚すること。防衛機制のひとつで、投影することにより不安を軽減し、自己の安定を得ようとする。
また投影とは、無意識的に働くものです。そのため、自分が投影していることに気づかない場合も多くあります。
なぜ人は自己投影をしてしまうのか?
人は投影することにより、否定的な感情を取り除こうとします。
たとえば先ほどの例文では、自分が先輩を嫌っているのに、先輩が自分のことを嫌いだと思うようにしていました。その結果、自分は悪くないという気持ちになります。
つまり投影とは、自分を守ろうとする無意識的な心のメカニズムとも言えるでしょう。相手に原因があると思うことで、不安や葛藤を軽くしているのです。
投影することのデメリットと注意点
投影することの意味を考えると、不安や葛藤が軽減されるというメリットはあります。しかし一方で、デメリットもあります。
ここでは「他者」と「自分」に分けて、デメリットを挙げてみました。投影について考えるときは、一緒に確認しておくとよいでしょう。
他者:人間関係のトラブルのきっかけになる
「この人は自分のことが嫌いだ」と感じても、自分の気持ちを投影しているだけで、事実と異なる可能性があります。そして投影は無意識に働くため、見極めるのは大変です。
また自分の否定的な感情を映し出すことで、相手との関係性が悪くなるケースも考えられるでしょう。そのため、物事を客観的に見て判断することが重要になります。
自分:気持ちに向き合うことができない
投影することは、「自分の受け入れがたい状況から逃げている」とも考えられます。そのため使い方を間違えると、自分と向き合う機会が減ってしまうという意見もあります。
たしかに本来であれば、問題に立ち向かい、感情をコントロールすることも重要です。しかし無理に立ち向かう必要はないと、私は思っております。
投影とは自分を守ろうとするものであり、人間として当たり前な行動です。あくまでもデメリットの側面も一部あると、認識するようにしてください。
「投影」と「投影性同一視(同一化)」との違い
投影と似ている心理学用語で、「投影性同一視(同一化)」というものがあります。どちらも意味が似ているので注意が必要です。
ここでは「提唱者」「概念」「行動」に注目して、違いを比較してみました。混同しないためにも、ぜひ内容をチェックしてみてください。
提唱者の違い
そもそも投影と投影性同一視は、提唱者が異なります。
投影とは、精神科医のジグムント・フロイト(Sigmund Freud)の考えをもとにしています。その後、娘であるアンナ・フロイト(Anna Freud)によって整理された概念です。
一方で投影性同一視とは、メラニー・クライン(Melanie Klein)が提唱した概念になります。彼女は児童分析を専門とする精神分析家で、フロイトの弟子でもあります。
投影 | ジグムント・フロイト アンナ・フロイト (自我心理学派) |
投影性同一視 | メラニー・クライン (対象関係論) |
概念の違い
投影性同一視は「原始的防衛機制」のひとつと考えられています。原始的防衛機制とは、乳幼児にも見られるような、基本的な防衛機制です。
そのため投影と比較した場合、投影性同一視は、自我が未熟な人にあらわれやすい行動だといえます。
投影 | 防衛機制のひとつ |
投影性同一視 | 原始的防衛機制のひとつ 自我が未熟な人に見られる |
行動の違い
投影とは、否定的な感情を相手がもっていると思うことです。そして投影性同一化は、投影したあとに、その感情を相手がもつように操作をします。
たとえば投影が働いて、相手が自分のことを信じてくれないと思うことにします。そして「私のこと信じていないですよね?」と言ってしまうのが、投影性同一化です。
この場合、もし相手が何も思っていなくても、あなたに対して不信感を抱いてしまうでしょう。
また両親が子どもに自分の理想を押し付けてしまい、子どもが「私のこと嫌いなんでしょ?」というようなケースも、投影性同一視が働いていると考えられます。
投影 | 否定的な感情を相手がもっていると思う |
投影性同一視 | 投影したあとに、その感情を相手がもつように操作する |
心理学における投影の意味まとめ
ここでは心理学における投影について、意味をわかりやすくまとめてみました。
投影の説明は以下のとおりです。自分を守ろうとする無意識的な心のメカニズムとも言えます。
【投影とは】
自分がもつ否定的な感情を、他人のものとして知覚すること。防衛機制のひとつで、投影することにより不安を軽減し、自己の安定を得ようとする。
また似たような意味をもつ「投影性同一視」の場合、投影したあとに相手を操作しようとする行動が見られます。混同しないように覚えておくとよいでしょう。
投影の意味について理解を深めるためにも、ぜひここで解説した内容を参考にしてみてください。
投影に関する書籍紹介
投影に関する書籍として、「自我と防衛」などがあります。これはアンナ・フロイトの防衛機制についてまとめられている本です。
またフロイトの精神分析から学ぶ場合は、「世界一わかりやすいフロイト教授の精神分析の本」もおすすめします。
より詳しく投影について学びたい人は、ぜひ読んでみてください。
投影に関する参考文献
・パーソナリティ障害および物理的パーソナリティの診断,病理の理解と治療
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