マズローの欲求5段階説とは、人間の欲求を5つの階層に分けた理論です。下から「生理的欲求」「安全の欲求」「社会的欲求(所属と愛の欲求)」「承認の欲求」「自己実現の欲求」と並びます。
この理論は「人間は自己実現に向かって絶えず成長する」という仮定のもとで成り立っています。そのため、自己実現理論とも呼ばれているのが特徴です。
ここではマズローの欲求5段階説について、理論をわかりやすくまとめてみました。またマズローの晩年に発表された、6段階目の「自己超越欲求」についても触れています。
具体例を挙げながら、各階層ごとに解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。
マズローの欲求5段階説(自己実現理論)とは?簡単に説明
そもそもマズローの欲求5段階説とは、アメリカの心理学者アブラハム・マズローによって考案された理論です。人間の基本的な欲求が、5つの階層に分けられています。
マズローの理論では、階層が下になるほど、原始的で低次な欲求とされていました。そして低階層の欲求が満たされると、より高次の欲求を満たそうとする、人間性の心理をまとめています。
【マズローの欲求5段階説(自己実現理論)とは】
人間の欲求を、5つの階層に分けた理論。マズローは人間を「自己実現に向かって絶えず成長する生き物」とし、下から生理的欲求・安全の欲求・社会的欲求・承認の欲求・自己実現の欲求と階層化した。
またマズローの欲求5段階説は、モチベーションを高める場合や、人の世話をする場合にも役立ちます。そのため、経営や看護などの分野でも応用されているのが特徴です。
ちなみにマズローは、より高次な欲求に移行するために、現時点の欲求が100%満たされる必要はないとしています。
※一般的な人の場合で、生理的欲求の85%・安全の欲求の70%・社会的欲求の50%、自尊心の欲求の40%、自己実現の欲求の10%と言われています。
階層ごとの意味と具体例をわかりやすく解説
ここからはマズローの欲求5段階説について、階層ごとに内容を紹介します。具体例と一緒にまとめているので、ぜひ参考にしてみてください。
マズローの欲求階層 | 人間の欲求 |
---|---|
第1段階 | 生理的欲求 |
第2段階 | 安全の欲求 |
第3段階 | 社会的欲求 (所属と愛の欲求) |
第4段階 | 承認の欲求 (尊敬の欲求) |
第5段階 | 自己実現の欲求 |
第1段階:生理的欲求
第1段階の生理的欲求とは、生命を維持するために必要とされる、本能的な欲求です。
マズローは生理的欲求について、「疑いの余地なく、あらゆる欲求の中でも最も優勢なもの」とまとめています。具体的な例は、食欲・睡眠欲・性欲などです。
一般的な動物が、このレベルを超えることはほとんどありません。しかし健康的な人間であれば、生理的欲求はすぐに満たされるので、より高次な「安全の欲求」を求めるでしょう。
第2段階:安全の欲求
安全の欲求とは、安心して暮らすことへの欲求や、身の危険を守ることへの欲求です。主に事故・災害などが起きたとき、病気にかかったときなどに現れます。
特に幼児の場合は、安全の欲求を求めようとする行動が顕著に見られます。一方で大人の場合は、危険や恐怖を対処する力が身についているため、安全の欲求は目立ちません。
ちなみに経済的な安全(保険・貯蓄など)や、哲学的思考の安定なども含まれます。たとえば「ランチで迷ったとき、いつもと同じものを選んでしまう」というのも、安全の欲求のひとつでしょう。
第3段階:社会的欲求(所属と愛の欲求)
社会的欲求とは、集団の一員でありたい・社会から必要とされたいという欲求です。人間がグループを作ったり、SNSを使ったりするのも、このような帰属意識を求めるためだと考えられます。
また社会的欲求に、愛情が含まれているところもポイントです。マズローは愛の欲求について、「与える愛と受ける愛の両方を含むことを見逃してはならない」としています。
生理的欲求・安全の欲求と違って、社会的欲求は、生命の危機に関わるものではありません。しかし欲求の満たされない状態が続くと、不安や孤独を感じやすくなるでしょう。
第4段階:承認の欲求(尊敬の欲求)
承認の欲求とは、誰かに認められたい・尊敬されたいという欲求です。マズローは承認の欲求について、「自分自身の評価」と「他者から受ける評価」の2つに分類しています。
自分自身の評価は、主に「強さ・達成・適切さ・熟達と能力・世の中に対して示す自信・独立と自由に対する願望」です。自信をつけたいなどの気持ちも含まれます。
一方で、他者から受ける評価の例として「評判・地位・名声・栄光・優越・注目・重要度」などがあります。高級車や高級時計を身につけて、他者にアピールしたいのも、承認欲求のひとつでしょう。
また承認の欲求は、今までの段階と違って、内面的な部分に向けられています。そして欲求は、満たされると自尊心が高まり、妨害されると劣等感・無力感を感じるのが特徴です。
第5段階:自己実現の欲求
第4段階までの欲求を満たしたとしても、自分に適していることを行わない限り、新たな不満が生じてしまいます。そこで現れるのが、「理想の自分になりたい」という自己実現の欲求です。
具体例として、メジャーデビューを目指す歌手・お笑い芸人などが挙げられます。アルバイトをしたり、食費を削ったりする状況でも、自己実現のために頑張るという話は聞いたことがあるでしょう。
ちなみに、5つの欲求すべてを満たした「自己実現者」には、以下の特徴が見られます。
【自己実現者の特徴15】
1、現実をより有効に知覚し、それとより快適な関係を保つこと
2、受容(自己・他者・自然)
3、自発性・単純さ・自然さ
4、課題中心的
5、超越性・プライバシーの欲求
6、自立性 – 文化と環境からの独立、意志、能動的人問
7、認識が絶えず新鮮であること
8、神秘的体験 – 至高体験
9、共同社会感情(共同体感覚)
10、対人関係(少数との深い結びつき)
11、民主的性格構造
12、手段と目的の区別、善悪の区別
13、哲学的で悪意のないユーモアのセンス
14、創造性
15、文化に組み込まれることに対する抵抗,文化の超越
参照:マズロー心理学入門
マズローの欲求5段階説を分類ごとに説明
マズローの欲求5段階説は、以下のような分類で考えることもできます。
人間の欲求を理解するうえで重要になるので、覚えておくと良いでしょう。
・「物質的欲求」と「精神的欲求」
・「外的欲求」と「内的欲求」
・「欠乏欲求」と「成長欲求」
「物質的欲求」と「精神的欲求」
ものを手に入れることで満たされる欲求が「物質的欲求」です。マズローの欲求5段階説のうち、第1段階の生理的欲求・第2段階の安全の欲求が当てはまります。
それに対して、喜びや満足感など、精神的に満たされる欲求が「精神的欲求」です。これらは、第3段階よりも高次な欲求になります。
【物質的欲求】 食べ物が欲しい 家が欲しいなど | 第1段階:生理的欲求 第2段階:安全の欲求 |
【精神的欲求】 必要とされたい 愛されたいなど | 第3段階:社会的欲求 第4段階:承認の欲求 第5段階:自己実現の欲求 |
「外的欲求」と「内的欲求」
衣食住や社会との関わりなど、自分自身の外側(外部環境)を整えようとする欲求が「外的欲求」です。生理的欲求・安全の欲求・社会的欲求が当てはまります。
そしてこれらが満たされると、人間の欲求は内面に向きます。そのためマズローの欲求5段階説のうち、第4段階の承認欲求・第5段階の自己実現の欲求を満たそうとします。
【外的欲求】 衣食住の安全 友達を作りたいなど | 第1段階:生理的欲求 第2段階:安全の欲求 第3段階:社会的欲求 |
【内的欲求】 目標を達成したい 自信をつけたいなど | 第4段階:承認の欲求 第5段階:自己実現の欲求 |
「欠乏欲求」と「成長欲求」
第5段階に達しない欲求は、すべて「欠乏欲求」に分類されます。これは自分に足りないものを、他者や外部から得ようとする欲求です。
一方で欠乏欲求が満たされると、自分の可能性を追求することが動機になります。この段階は「成長欲求」と呼ばれています。
【欠乏欲求】 お金が欲しい 評価されたいなど | 第1段階:生理的欲求 第2段階:安全の欲求 第3段階:社会的欲求 第4段階:承認の欲求 |
【成長欲求】 才能を伸ばしたい 夢を叶えたいなど | 第5段階:自己実現の欲求 |
実は6段階?自己実現よりも高次な「自己超越欲求」
晩年のマズローは、自己実現よりもさらに高次な「自己超越」という段階があることを発表しました。具体的な例としては、寛容・慈善・弱者救済などです。
主に自分(利己)だけでなく、他者(利他)も大切にしようとする心が当てはまります。ノーベル平和賞を受賞したマザーテレサは、自己超越の段階だったと考えられます。
ちなみにこの6段階目に達しているのは、人口の2%程度と言われています。マズローの欲求階層は、一般的に5段階で知られていますが、チェックしておくと良いでしょう。
マズローの欲求5段階説(自己実現理論)の意味・具体例まとめ
ここではマズローの欲求5段階説について、意味をわかりやすくまとめてみました。
マズローの欲求5段階説の説明は以下のとおりです。人間の欲求を5つの階層に分けたもので、自己実現理論とも呼ばれています。
【マズローの欲求5段階説(自己実現理論)とは】
人間の欲求を、5つの階層に分けた理論。マズローは人間を「自己実現に向かって絶えず成長する生き物」とし、下から生理的欲求・安全の欲求・社会的欲求・承認の欲求・自己実現の欲求と階層化した。
また自己実現の欲求よりも高次な欲求として、6段階目の「自己超越欲求」があると発表されています。正しく学ぶためにも、階層ごとの意味と具体例をしっかり確認しておきましょう。
マズローの欲求5段階説について理解を深めたい場合は、ぜひここで解説した内容を参考にしてみてください。
マズローの欲求5段階説の参考書籍
マズローの欲求5段階説に関する書籍として、「マズロー心理学入門」などがあります。
イラストはほとんどありませんが、マズロー心理学について詳しく解説されているのが特徴です。欲求5段階説についても、階層ごとに簡単にまとめられていました。
ちなみにこの本では、社会的欲求ではなく「所属と愛の欲求」という言葉が使われています。より詳しくマズローの欲求5段階説を学びたい人は、ぜひチェックしてみてください。
マズローの欲求5段階説の参考文献
※参考書籍や参考文献をもとに、筆者の見解を踏まえて内容をまとめております。
※文章や画像を引用していただいても構いません。その際にはサイト名を明記のうえ、該当記事へ飛べるようにURLの設置をお願いいたします(詳しくは「引用・著作権について」をご確認ください)。