多元的無知とは?心理学の意味・実験内容・具体例をわかりやすく解説

多元的無知とは

多元的無知(pluralistic ignorance)とは、「自分の考えは他人と違うと思い込んで、周りに合わせてしまう」という心理学用語です。

多元的無知が起こると、間違った思い込みに振り回されて、自分の意見も主張できなくなってしまいます。日常でもよく見られる現象なので、注意が必要でしょう。

そこで今回は、多元的無知とは何かをわかりやすくまとめてみました。心理学の意味・具体例・実験内容についても簡単に説明しています。

また多元的無知の解決策にも触れているので、ぜひ参考にしてみてください。

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多元的無知とは?心理学の意味をわかりやすく解説

そもそも多元的無知は、心理学の同調と関係がある用語で、集合的無知と呼ばれています。「自分の考えは他人と違うと思い込んで、周りに合わせてしまう」という意味です。

たとえば駅で倒れている人がいて、声をかけるか悩むとします。しかし周りの人が素通りするので、「誰も気にしてないから平気だろう」と思ってしまうようなイメージです。

【多元的無知とは】
「自分の考えは他人と違う」と思い込んで、周りに合わせてしまうこと。集合的無知と呼ばれることもある。

実際はただの思い込みで、「周りの人も平気だと思っている」ということはありません。しかしその場にいる全員が同時に思い込むと、あたかもそのように見えてしまいます。

ちなみに有名な童話のひとつである「裸の王様」も、この多元的無知を表しているといえます。

【裸の王様】
王様が仕立て屋に騙されて「バカには見えない服」を着る話。人々からは何も着ていないように見えるが、誰も真実を伝えられず、そのままパレードに出かけた。

多元的無知に関係する心理学実験を簡単に説明

多元的無知に関係する心理学実験として、1968年にラタネとダーリーが行ったものがあります。

この実験では参加者を部屋に集めて、アンケートに回答してもらいます。その途中、部屋の通気口から煙を充満させて、参加者が報告するかを調査しました。

その結果、実験の参加者が1人(被験者のみ)の場合、2分以内に報告した割合は約55%でした。4分以内に報告した割合で見ると、約75%まで上昇します。

しかし実験の参加者が2〜3人(被験者以外はサクラ)の場合、2分以内に報告した割合は約12%まで下がります。4分以内に報告した割合で見ても、約12%のままでした。

この違いは、多元的無知が原因だと考えられます。つまり煙が出ていても、周りの人が行動しなかったため、「緊急事態ではないだろう」と被験者は思ったわけです。

日常でも見られる多元的無知の具体例

多元的無知の具体例として、わかりやすいのがいじめ問題です。「みんな無視してるから大丈夫だろう」と全員が思い込んで、誰も助ける人がいないと、いじめは深刻化します。

また災害時に避難しない人を、例として紹介することもあります。避難勧告が出ても平気だと思ってしまうのは、多元的無知が関係しているといえるでしょう。

ちなみに、大勢の人が周りにいることで、自分の行動が抑制される集団心理のことを傍観者効果といいます。多元的無知は、傍観者効果が起こる理由のひとつだといわれています。

メディアの影響を受けて多元的無知が起こる例もある

メディアが偏った報道をすることで、多元的無知が起こる例もあります。たとえば政党Aを支持していない人が、「世論調査で政党Aの支持率が高い」というニュースを見たとします。

別の番組でも同じ内容が放送されていると、その人は「自分の考えは他人と違う」と感じるかもしれません。その結果、周りに合わせて政党Aに投票していまうイメージです。

またトイレットペーパーが不足しているなどのニュースが流れて、買い占めが発生するのも、「家にあるけどみんな買っているし…」という多元的無知が起きていると考えられます。

ちなみに多元的無知が起こると、少数派は意見を表明しづらくなり、ますます少数派になってしまいます。このような現象を、心理学では「沈黙の螺旋」といいます。

多元的無知の解決策とは?対策するためのポイント

多元的無知を解決するには、まず個人個人の意識を変えて、意見をしっかり主張することが重要だといえます。

「裸の王様」の話でも、人々は王様の服が見えないことを黙っていました。そしてパレードで、一人の子どもが真実を言うと、王様が裸であると認めるようになります。

しかし「自分の考えは他人と違う」と思い込んでいる状況で、意見を主張することは難しいかもしれません。そのためには自己肯定感を高めて、自信をつけることも必要でしょう。

また別の視点で、制度自体を変えてしまう解決策もあります。たとえば会社で残業NGにすれば、「早く帰りたいけどみんな頑張っているし…」という多元的無知を防げます。

多元的無知の意味・具体例・解決策まとめ

今回は心理学の多元的無知について、簡単にまとめてみました。

多元的無知の意味は、以下のとおりです。「裸の王様」の話が具体例としてよく紹介されており、いじめ問題や災害時の避難行動などをイメージするとわかりやすいと思います。

【多元的無知とは】
「自分の考えは他人と違う」と思い込んで、周りに合わせてしまうこと。集合的無知と呼ばれることもある。

多元的無知が起こると、間違った思い込みに振り回されて、自分の意見も主張できなくなります。そのような事態を防ぐためにも、意味や解決策を確認しておくと良いでしょう。

多元的無知の理解を深めるためにも、ぜひここで紹介した内容を参考にしてみてください。

多元的無知に関係する参考文献

多元的無知の先行因とその帰結:個人の認知・行動的側面の実験的検討

多元的無知が非合理的社会現象の普及および維持過程において果たす機能

※参考書籍や参考文献をもとに、筆者の見解を踏まえて内容をまとめております。

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