マインドフルネスとは、「今という瞬間や体験に注意を向けて、それをありのままに受け入れること」を意味する用語です。
日本の心理臨床におけるマインドフルネスによると、マインドフルネスをベースにおく心理療法は急速に発達しており、日本でも研究が進んでいることがわかります。
しかしマインドフルネスにどんなメリットがあるのか、やり方に疑問を持つ人もいるでしょう。「やったけど効果ない」「瞑想の意味ない」と感じる人もいるかもしれません。
そこで今回は、マインドフルネスについてわかりやすくまとめました。心理学の意味・期待できる効果・瞑想のやり方も紹介しています。
また日常生活で簡単に実践できる瞑想方法や、注意点にも触れています。マインドフルネス瞑想を行う際には、ぜひ参考にしてみてください。
マインドフルネスとは?意味・定義を簡単に解説
そもそもマインドフルネス(mindfulness)とは、仏教で悟りを開くための瞑想法を、マサチューセッツ大学医学大学院教授のジョン・カバットジンが体系化したものです。
1960年代からアメリカに波及しはじめ、そこから世界中に広まりました。「今という瞬間や体験に注意を向けて、それをありのままに受け入れること」を意味します。
【マインドフルネスとは】
今という瞬間や体験に注意を向けて、それをありのままに受け入れること。ジョン・カバットジン博士が体系化した。
そのため現在のマインドフルネスは、臨床技法のひとつとしても知られています。実際に認知行動療法など、心理学の現場でも活用される事例が多くあります。
また誰でも簡単に始められるのも、マインドフルネスのメリットのひとつです。日常生活にも取り入れることができ、さまざまな効果を期待できます。
マインドフルネスの効果やメリット
効果1:ストレスの軽減
マインドフルネスでは、自分の感覚や思考に意識を向けます。そのため、ストレスに対する考え方や反応に気づき、変えることができるようになります。
また現在に注意を向けることで、過去の後悔・将来の不安と、一時的に距離を置くことができます。それにより、ストレス軽減の効果につながるというわけです。
効果2:集中力アップ
「今この瞬間」を意識するマインドフルネスを繰り返すと、集中力がアップします。また不安や焦りなど、集中を妨げる感情・思考も、コントロールできるようになります。
その結果、作業を効率良く進められ、パフォーマンスも向上するでしょう。実際にマインドフルネスは、仕事・勉強・スポーツなど、さまざまな分野で活用されています。
効果3:睡眠の質の改善
寝る前に1日の反省をしたり、明日のことを考えたりすると、なかなか入眠できません。また脳が活性した状態だと、ゆっくり休むことができず、疲れも取れないでしょう。
しかしマインドフルネスを行うと、心が落ち着く状態を作り出せるようになります。これにより入眠しやすくなるので、睡眠の質が改善する効果を期待できるわけです。
シンガポールでも、マインドフルネス療法と不眠症の軽減に関する研究が行われています。
効果4:免疫力の向上
ストレスのかかった状態が長期間続くと、からだの免疫システムに悪影響を与えます。その結果、病気に対する抵抗力も弱まってしまうでしょう。
マインドフルネスには、ストレスを軽減する効果が期待できるので、免疫システムが正常に機能しやすい環境が整います。そのため、免疫力が向上すると考えられています。
効果5:怒りの低減
マインドフルネスの練習をすると、怒りやイライラなどの感情が浮かんだときも、それらに意識的に気づくことができます。そのため状況を、冷静に判断することができます。
また自分のことを客観的に観察できれば、感情に振り回されることも減るはずです。その結果、「ついカッとなって」という行動も少なくなるでしょう。
実際に「マインドフルネス瞑想の怒り低減効果に関する実験的検討」のような論文もあります。
効果6:うつ病の予防や治療
「今この瞬間」に集中することは、ストレスケア・メンタルケアにもつながります。そのため、うつ病の予防や治療法としても、マインドフルネスは注目されています。
マインドフルネスでは、後悔・不安などの感情も、ありのままに受け止めるのが特徴です。そのためトレーニングを続ければ、ネガティブな思考パターンも変えることができます。
ちなみにトレーニングの具体例ですが、たとえば「マインドフルネストレーニングが大学生の抑うつ傾向に及ぼす効果」では、坐禅の訓練が採用されています。
マインドフルネスの種類をわかりやすく説明
マインドフルネス瞑想
マインドフルネス瞑想には、1つのものに注意を集中させる瞑想方法(サマタ瞑想)と、あらゆるものに意識を向ける瞑想方法(ヴィパッサナー瞑想)があります。
1つのものに注意を集中させる場合、代表的な例としては、呼吸・ろうそくの炎などが挙げられます。他のものに気づいても、対象に注意を戻すという瞑想方法です。
あらゆるものに意識を向ける場合、自分の感情・思考に気づいてもそのまま受け入れます。また周囲の音・出来事などにも、オープンな態度で注意を払い続けます。
サマタ瞑想 | 1つのものに注意を集中させる瞑想方法 他のものに気づいても対象に注意を戻す |
ヴィパッサナー瞑想 | あらゆるものに意識を向ける瞑想方法 気づいたらそのまま受け入れる |
※マインドフルネスの起源は、ヴィパッサナー瞑想と言われています。瞑想のやり方は違いますが、どちらが良い・悪いという区別はありません。
ボディスキャン瞑想
身体のあらゆる部分に注意を向けて、観察する瞑想方法がボディスキャン瞑想です。座ったままの状態で行うこともあれば、仰向けに寝ながら行うこともあります。
ボディスキャン瞑想では「つま先→足首→すね」のように、少しずつ位置を変えていきます。場所によって温かさを感じたり、重さに気づいたりするかもしれません。
身体全体をスキャンするように、上から下へ(下から上へ)、注意を向けてみてください。
【左足の場合】
つま先→足首→すね→ふくらはぎ→膝→太もも→お尻→左足全体
【右手の場合】
指先→手のひら・手の甲→手首→前腕→肘→二の腕→肩→右手全体
マインドフルネスヨガ
マインドフルネスヨガでは、ヨガのポーズをとりながら、心や身体に意識を向けます。初心者向けから、上級者向けの姿勢まであるので、自分に合うものを探してみてください。
いまでは全国にヨガ教室があり、気軽にマインドフルネスヨガを体験できるようになっています。ただしダイエット目的などのコースもあるので、内容は確認しておきましょう。
マインドフルネスのやり方(瞑想方法・呼吸法)
マインドフルネスの準備
まずはマインドフルネス瞑想を行う前に、周囲の環境を整えます。一人きりになれて集中できるような、静かな場所に移動してください。
また心を落ち着かせるために、アロマフレグランスを用意したり、YouTube動画などで音楽を流しても構いません。その際には、瞑想用の心地よい曲を選びましょう。
マインドフルネスの姿勢
座って行う場合は、背筋を伸ばして、両手を太ももの上に置きます。このとき、姿勢が維持できるクッションや、瞑想用の椅子を利用するのもおすすめです。
寝ながら行う場合は、ベッドやマットのうえで仰向けになると良いでしょう。もし腰に負担がかかるようなら、タオルなどを挟んでも問題ありません。
マインドフルネス瞑想では、リラックスできる状態を作り出すことが重要です。「この座り方じゃないといけない」ということはないので、自分に合った姿勢を見つけましょう。
マインドフルネスの呼吸法
マインドフルネス瞑想を行うときは、深呼吸を心がけます。息を吸い込む際は鼻から、吐く際は口からを意識してみてください。
ちなみに呼吸の長さについては、一概に「何秒がいい」という決まりはありません。無理に一定の秒数に合わせるよりも、自分が心地よいと感じるリズムでを行いましょう。
※私自身は、1セット10秒になるように「5秒吸って5秒吐く」という呼吸法を実践しています。ただし回数や秒数に気を取られないよう、何回行うとは決めていません。
マインドフルネスの瞑想方法
マインドフルネスには、1つのものに注意を集中させる瞑想方法と、あらゆるものに意識を向ける瞑想方法があります。初心者であれば、呼吸に集中する方法がおすすめです。
マインドフルネス瞑想を実践していると、「お腹が減った」「いま何分経っただろう」「顔がかゆい」など、さまざまな思考・感情が浮かんできます。
また「子どもの遊んでいる声が聞こえる」「飛行機が飛んでいる」「ご飯のにおいがする」など、周囲に対する気づきも出てくるでしょう。
このような状態になっても、「自分はできない」と責める必要はありません。そのような自分を観察して、対象に注意を戻したり、ありのまま受け入れたりするのがマインドフルネス瞑想です。
マインドフルネスの時間・期間
マインドフルネスの本を読むと、30分から1時間程度かけて行う方法が紹介されています。しかしいきなりは難しいですし、忙しくて時間がないという人もいるでしょう。
なので初心者の場合、最初は5分から10分程度の短い時間で、瞑想を始めることをおすすめします。慣れてくると、次第に瞑想時間を延ばしていくことができるはずです。
ちなみマインドフルネスの講座・セミナー・ワークショップ・研修などの場合は、長期間のプログラムも用意されています。
簡単に実践できるマインドフルネスの例
食べる瞑想(マインドフルネスイーティング)
食べる瞑想(マインドフルネスイーティング)とは、普段の食事に注意を向ける方法です。何を食べても構いませんが、時間をかけてゆっくり行います。
まず口に運ぶ前には、食べ物の見た目・香りに注意を向けます。そして口に入れたら、じっくり味わいながらよく噛んで、食感や味の変化を楽しむという内容です。
このとき、食事に集中できるよう、静かな環境を作ることが重要です。スマホは遠ざけて見ないようにし、テレビも消しておくのが良いでしょう。
- 食事に集中できる静かな環境を作る
- 口に運ぶ前には見た目・香りに注意を向ける
- 口に入れたら、ゆっくりと噛み、味わいを楽しむ
- 噛む回数を増やし、食べ物の食感や味の変化に意識を向ける
歩く瞑想(マインドフルネスウォーキング)
外出するときに、気軽に実践できるのが、歩く瞑想(マインドフルネスウォーキング)です。自分の感覚や、周囲の環境に注意を向けます。
たとえば足が地面に触れる感覚や姿勢、自分の呼吸・体温などです。また風・におい・周囲の音や、自然・生き物などにも意識を向けられるでしょう。
普通に歩くよりも、リラックス効果が期待できるので、ストレス軽減・気分転換にもつながります。散歩はもちろん、通勤や買い物などで出かけるときにもおすすめです。
ちなみに、走る瞑想(マインドフルネスランニング)もあります。個人的には、ランニングの方が自分の呼吸に集中しやすく、ほかの思考が浮かんでこない気がしました。
- 快適な速度で歩き始めて、呼吸に意識を向ける
- 足が地面に触れる感覚や歩行のリズムに集中する
- 身体のほかの部位にも意識を向ける
- 周囲の環境(風・におい・音など)にも意識を向ける
マインドフルネスを活用した心理学
マインドフルネスストレス低減法(MBSR)
マインドフルネスストレス低減法は、MBSR(Mindfulness Based Stress Reduction)とも呼ばれています。ジョン・カバットジン博士が開発した、ストレス軽減のプログラムです。
これはマインドフルネス瞑想がもとになっており、身体的・精神的な痛みとうまく付き合うことを目的にしています。それにより、ストレスの軽減を目指すという内容です。
マインドフルネスストレス低減法では、8週間のプログラムが用意されています。医療機関だけでなく、教育現場・企業で実施されているのが特徴です。
マインドフルネス認知行動療法(MBCT)
マインドフルネスストレス低減法を、うつ病に応用したものが、マインドフルネス認知行動療法です。MBCT(Mindfulness Based Cognitive Therapy)とも呼ばれています。
これはマインドフルネスと、認知行動療法を組み合わせたものです。自分の考え方や感情に気づき、認識を変えることで、不安の緩和・うつ病の再発予防を目指します。
内容もマインドフルネスストレス低減法と似ており、8週間のプログラムが用意されていました。抗うつ剤と同等な効果があると言われており、注目を集めています。
セルフコンパッション
セルフコンパッションとは、心理学者のクリスティン・ネフ博士が提唱したものです。「自分(self)への思いやり(compassion)」を意味します。
これは大切な人に優しく接するのと同じように、自分にも優しく接するという考え方です。そのためには、自分の感情に気づき、ありのままを受け入れる姿勢が必要になります。
セルフコンパッションの構成要素のなかに、マインドフルネスが含まれている形なので、気になる人はチェックしてみると良いでしょう。
ACT(アクセプタンス&コミットメントセラピー)
ACTとは「acceptance and commitment therapy」の略で、それぞれの頭文字をとって名付けられました。心理学者のスティーブン・C・ヘイズらが提唱した概念です。
これは、心理的柔軟性を高めることを目的にしています。自分でコントロールできないものを受け入れ、豊かな人生を切り開くために自己決定し、行動するという内容です。
ACTには6つのプロセスがあり、そのひとつにマインドフルネスの「今この瞬間に集中する」という考え方が応用されています。
マインドフルネスの注意点や危険性
マインドフルネスの効果には個人差がある
マインドフルネス瞑想を実践したときに、ありのままを受け入れられるかは、人それぞれです。そのためすぐ効果を実感する人もいれば、時間がかかる人もいるでしょう。
なかには「こんなことをしても意味ない」「瞑想しても効果ないだろう」など、否定的になる人もいるかもしれません。そのような感情も、ありのまま受け入れることが大切です。
痛みや不快感が強くなる可能性もある
マインドフルネスでは傷のある部位や、嫌な感情にも注意を向ける必要があります。特にボディスキャン瞑想の際には、一時的に痛みや不快感が強くなる可能性もあるでしょう。
しかしそれは、自分の気づきと向き合っている証拠です。長期的には、ありのままの感覚・感情を受け入れるようになり、ストレス軽減効果を期待できます。
マインドフルネスができない場合は無理しない
人によっては痛みや不快感が強すぎて、気持ち悪いと感じたり、嫌な記憶がフラッシュバックしたりするかもしれません。もしマインドフルネスができないと判断した場合は、無理をしないでください。
現在うつ病・不安障害などで、通院している人は、事前に医師と相談しておくと良いでしょう。また必要に応じて、プロのカウンセラーや専門家に頼ることをおすすめします。
マインドフルネスのよくある質問
マインドフルネス瞑想の意味・効果・やり方まとめ
今回は心理学のマインドフルネスについて、わかりやすくまとめてみました。
マインドフルネスの意味とは、以下のとおりです。瞑想することで、ストレスの軽減・集中力アップ・睡眠の質の改善などの効果を期待できます。
【マインドフルネスとは】
今という瞬間や体験に注意を向けて、それをありのままに受け入れること。ジョン・カバットジン博士が体系化した。
マインドフルネス瞑想のやり方には、さまざまな種類があります。日常生活で簡単に実践できる方法も多いので、気軽に試してみると良いでしょう。
マインドフルネスについて、理解を深めるためにも、ぜひここで紹介した内容を参考にしてみてください。
関連記事:マインドフルネス本のおすすめは?
関連記事:マインドフルネスストレス低減法とは?
マインドフルネスの参考書籍
マインドフルネスに関する書籍として、「マインドフルネスストレス低減法」「マインドフルネス入門講義」などがあります。
「マインドフルネスストレス低減法」は、ジョン・カバットジン博士が著者の本です。マインドフルネスの科学的な効果、瞑想のやり方なども、わかりやすく紹介されています。
「マインドフルネス入門講義」は、大谷彰教授が著者の本です。仏教瞑想からどのようにマインドフルネスが生まれたのかなど、歴史的背景も解説されています。
気になる人はぜひ一度チェックしてみてください。
マインドフルネスの参考文献・組織
- 一般社団法人マインドフルネス瞑想協会
- マインドフルネスにみる情動制御と心理的治療の研究の新しい方向性
- マインドフルネスの促進困難への対応方法とは何か
- 困難な状況からの回復や成長に対するアプローチ
- 禅的呼吸法によるストレス低減効果
- 「マインドフルネスに基づくストレス低減プログラム」の健康心理学への応用
- ホスピス緩和ケアに従事する支援者のためのマインドフルネス認知療法の効果
- スポーツパフォーマンス向上のためのアクセプタンスおよびマインドフルネスに基づいた介入研究のシステマティックレビュー
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